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ちくりん日記〜かぐやのオリ姫〜

某所でアイドルやってます。思ったこと好きに書いたりするかも。大したこと書きません。あまり気にしないでね。

もしドラ

私は激怒した。必ず、かの自由奔放なバタ子を取り戻さねばならぬと決意した。

一週間も前のことである。私とバタ子はいつものように工場でパンを焼いていた。何の変哲もない一日が繰り返される毎日。しかし、私はそれを幸せに感じながら、その日も生地をオーブンに入れ、パンの焼き上がりを待っていた。

「私はさっき焼けたパンを隣町まで届けに行ってくるわね。」

バタ子はそう言って、パンを持って立ち上がった。パンの焼き上がりには時間がかかる。私は何を疑うでもなく、アンパンマン号に乗って家を出る彼女を見送った。思えばこれが、バタ子がいなくなる前に私と交した、最後の言葉だった。

「バタ子がいないと、暇なんだよなぁ…。」

ふとそんなことを考えていた。バタ子が家を出て、まだわずか十分程度であった。そんな最中、一人の少年がパン工場を尋ねてきた。彼は名をカバ男といった。ひどく焦っている様子だった彼に要件を確認しようとしたその時である。

ジャムおじさん、大変だよ!バタ子さんが知らない男の人と歩いているのを見たんだ!」

私は絶句した。あのバタ子が、私の知らないところで男と会っていたという事実を、私はどう受け止めたらよいかわからなかった。

思えば彼女の最近の行動は気がかりであった。これまでは食パンマンに頼んでいた配達も、最近では彼女が自ら志願して行うことが増えた。

「その男と会うための時間を確保するためだったのか…。」

私は我を忘れ、彼女が家に帰ってきたときにいかにして問い詰めるか、ただそれだけを考えていた。他のことなど、考えている余裕がなかったのだ。心の中にあったのは、燃え上がるような憎悪の念だけであった。私はいてもたってもいられなくなり、バタ子を探しに家を出た。

「密会現場に突撃して、言い訳できなくしてやる…。」

私は必死であった。しかし、街のどこを探せど、彼女は見つからない。見つかったのは、森の中に乗り捨てられたアンパンマン号だけであった。私は、ただ悲しみだけを背負い、アンパンマン号を回収して帰宅することを決めた。

森を抜け、パン工場に向かう。パン工場に近づくにつれて、私は冷静さを取り戻しつつあった。と同時に、私はあることを思い出した。

「しまった…。」

気付いた時には遅かった。これまでの三十年間、一度も忘れたことはないパンの焼き上がりを、私はすっかり忘れてしまっていたのだ。炎に焼き尽くされていくパン工場を、私はただただ呆然と立ち尽くして見つめることしかできなかった。

消防局の助けもあり、なんとか火はおさまった。しかし、これまで築いてきた町の人々の信頼は、一瞬にして崩れ去った。パンを焼くことのできない私に、メロンパンナカレーパンマンとの契約金は払うことのできない額となり、アンパンマンを除くパン人たちはやがて別のパン工場への移籍が決定した。食パンマンに至っては、ドキンちゃんとの結婚が決定したらしく、真っ先に私のもとを去っていった。

 私は悲しみにくれた。そしてなんとしてでも、工場を再建しようと考えた。しかしそれには資金が必要である。私は、資金集めのために、アンパンマン号とチーズを売りとばし、そこで得た金をギャンブルに使って増やそうとした。

「こんなオーナーじゃついていくことはできない。」

唯一私のもとに残ってくれていたアンパンマンでさえも、私のこの様を見て他の工場との契約を結び、去っていってしまった。

「もう…おしまいだ…。」

もう私には、何も残っていない。私は自らの愚行をただ悔いることしかできなかった。あれから一週間が経ち、日々を惰性で生きる生活が続いていたが、ついにバタ子を取り戻すことを決意し、今日未明、彼女を探しに出ることを決めた。

そのころである。遠くから聞き覚えのある声が、私の耳に入る。

「ジャムおじさ―――――――――――――ん。」

 あの声、あの髪型。間違いない、バタ子である。

「今までどこに行っていたんだ。」

 私は嫌味を含む口調で言った。すると、彼女は驚くべき言葉を口にした。

「ごめんなさい。実は私、ヤンキースにスカウトされたの!」

はじめは何を言っているのか、私には全く分からなかった。彼女の話によると、自らの体の半分程度の大きさを有する新しい顔を真っ直ぐ投げる肩の強さ、寸分の狂いもなく狙ったところに投げることのできるコントロール、球の勢いをちょうど胴体の真上で殺す絶妙な力加減を評価され、今回ニューヨークヤンキースからスカウトされ、来月行なわれるドラフト会議で一位指名を受けることとなったというのだ。

「じゃあ、近頃会っていた男性は…。」

ヤンキースのスカウトよ。もう契約は済ませてきたの。背番号は、1よ!」

 私は、これまでに彼女を疑った自分が恥ずかしかった。しかし、そんなことはどうでもよかったのである。バタ子が戻ってきてくれた、ただそれだけで私は嬉しかった。そして、女性に養ってもらう、いわばヒモの立場になってしまうことは覚悟の上である提案をした。

「もしよかったら、その契約金でパン工場をもう一度やり直さないか?」

彼女は、すぐさまこう答えた。

「それは無理よ、だって私はあのスカウトと…」

「結局浮気はしてるんか――――――――――――――――――い。」

 

 

 

『もしもバタ子さんがメジャーリーグのドラフト指名を受けたら』(完)